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海外銀行口座の税金・申告義務とは?|知らないと危ない“対策ポイント”を徹底解説

PPS.Llc

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2025.02.14

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海外の銀行に資産を預ければ、日本の税金はかからない──。
そんな“都市伝説”のような情報を耳にしたことはありませんか?

たしかに、日本よりも税制が緩やかな国や租税回避地(タックスヘイブン)が存在するのは事実です。しかし、日本に居住する限り、海外で得た利息や配当金も「課税対象」になることをご存じでしょうか?

税制に対する誤解や認識不足から、意図せず「無申告」や「過少申告」の状態に陥ってしまうケースも少なくありません。さらに、現在ではCRS(共通報告基準)といった国際的な情報共有制度により、海外口座の資産情報が日本の税務署にも届く仕組みが構築されています。

本記事では、海外銀行口座に関わる税金の基本と申告義務、よくある誤解と対策方法を整理し、リスクを最小限に抑えながら資産を守るための知識をお届けします。

「海外なら税金はかからない」
は本当?

海外税制に関するよくある誤解を吹き出しで示した図解

よくある誤解と
全世界所得課税制度の基本

「日本にない銀行口座だから、申告の義務もないのでは?」

そんな誤解を抱いたまま海外口座を開設・運用してしまう方は少なくありません。しかし、日本の税制では、全世界所得課税制度を採用しており、日本国内に居住している限り、世界中で得た所得すべてが課税対象となります。

つまり、海外の銀行に預けた預金の利息や配当金、為替差益、運用益なども、日本国内での申告義務が発生します。

「全世界所得課税制度」とは?

日本の居住者は、日本国内外を問わず、すべての所得に対して課税対象となる制度です。たとえば、海外口座の利息や、海外不動産の家賃収入などが含まれます。

税務上の「所得」とは?

「所得」は、収入から経費や控除を差し引いた後の「利益」を指します。単純な入金額とは異なり、課税対象となる部分を正しく理解しておくことが大切です。

日本に住んでいても、
海外資産は課税対象

課税対象となるかどうかは、「日本に居住しているかどうか」で判断されます。仮に海外で長期滞在していても、住民票が日本にある、生活の拠点が日本にある、扶養家族が日本にいる──このようなケースでは、税務上の「居住者」と見なされる可能性が高く、海外資産も申告対象となります。

「海外口座はバレない」という過去の認識は、今や通用しません。正しい税務知識こそが最大の“防衛策”なのです。

海外銀行口座にかかる
3つの税金とは?

では実際に、どのような税金が海外口座にかかるのでしょうか?次に詳しく見ていきましょう。

海外口座に関わる3種類の税金(所得税・贈与税・相続税)の比較図

所得税──
利息・配当・為替差益も対象

海外銀行口座で得られる利息、外国株式の配当金、さらには通貨売買による為替差益などは、いずれも日本国内で課税される「所得税」の対象となります。たとえ国外で発生した収益であっても、日本に居住している限り、原則として確定申告が必要です。

なお、海外で源泉徴収(あらかじめ差し引かれる税)が行われている場合は、日本の税額と二重で課税されることになりますが、「外国税額控除」を活用すれば、そのぶん日本の課税額を減らすことが可能です。

外国税額控除とは?

外で課税された分の一部を、日本の所得税額から控除できる制度。二重課税の回避が目的です。

贈与税──
家族名義や送金による税務リスク

親が子ども名義の口座へ資金を移したり、夫婦間で多額の送金を行うと、日本では「贈与」と見なされる可能性があります。特に、生活費や教育費としての送金は非課税とされますが、その目的や金額、頻度によっては資産移転=贈与と判断され、贈与税の対象になることもあります。

相続税──
海外資産にもかかる相続の実態

日本では、被相続人または相続人のいずれかが日本に居住している場合、海外の資産も相続税の対象になります。これは海外銀行口座の預金に限らず、不動産や株式なども含まれます。また、国によっては現地でも相続税が課されるため、日本と外国の両方で相続税が発生する「二重課税」となるケースもあります。その際も「外国税額控除」を活用することで、日本の相続税額から一部控除が受けられます。

申告しないとこうなる!
税務リスクとペナルティ

海外銀行口座で得た収益を申告しなかった場合、「知らなかった」では済まされないのが日本の税制度です。無申告が発覚した場合、以下のようなペナルティが課される可能性があります。

ペナルティの種類 内容 税率・影響
無申告加算税 期限後に申告した場合に課される税 税額の15%〜30%
延滞税 期限を過ぎた場合に発生する利息的税金 年率最大14.6%(遅延日数に応じ変動)
重加算税 隠ぺいや仮装行為と判断された場合 本税の最大35〜40%
刑事罰 悪質な脱税と認定された場合 懲役または罰金(併科あり)

スライドできます

補足:税務調査はどう行われる?

税務署は銀行口座情報、送金履歴、不動産購入履歴などから収入の実態を調査可能。CRS制度により、海外口座の情報も把握できるようになっています。

知らなかったでは済まされない
「申告の義務」

日本の税制は、納税者自らが申告する「申告納税制度」を基本としています。つまり、「税務署から通知が来ていないから大丈夫」と放置していると、ある日突然、過去に遡って調査・追徴課税が行われる可能性があります。

たとえば、ある年に発生した利息収入を5年後に指摘された場合、その利息に対する本税だけでなく、加算税や延滞税も加わり、想定以上の支払い義務が発生するリスクもあるのです。

海外送金や資産は
「バレる」のか?

CRSに参加する国と、情報共有の流れを示す世界地図

「海外にあるお金のことなんて、税務署には分からない」
──そう思っていた時代は、すでに過去のものです。

現在、日本を含む100カ国以上が参加するCRS(共通報告基準)により、各国の税務当局は金融機関を通じて非居住者の口座情報を自動的に交換しています。

たとえば、シンガポールに開設した銀行口座の情報は、現地の金融機関から日本の国税庁へ年1回、自動的に送信されます。これにより、口座の残高、利息、取引履歴などが可視化され、無申告状態は発見されやすくなっているのです。

補足:CRSとFATCA

CRSはOECD主導の情報交換制度。アメリカは非参加だが、代わりにFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)により、同様に情報を取得している。

どんな国がCRSに加盟しているのか?

CRSに参加している主な国には、日本・中国・シンガポール・スイス・UAEなどがあります。対して、アメリカはCRSには非参加ですが、FATCAを通じて日本を含む各国と二国間の情報共有協定を締結しています。

つまり、どこの国に口座を作っても「完全に匿名」は難しいのが現状です。むしろ、加盟国では情報が定期的に自動で送信されるため、「バレること前提」で申告をする運用がリスク回避の基本です。

100万円超の送金は税務署に報告される

100万円を超える海外送金が税務署に報告される流れの図解

もう一つ見落とされがちなのが、「海外送金に関する報告制度」です。日本国内の金融機関は、1回あたり100万円を超える海外送金(入出金)をした場合、税務署に自動報告する義務があります。これにより、大きな送金の履歴がトリガーとなって税務調査が行われる可能性があります。とくに、複数回に分けての送金や、目的があいまいなケースは注意が必要です。

国外送金等調書とは?

金融機関が作成・提出する報告書で、送金者・受取人・金額・日付・送金理由などが記載される。税務署が海外資金移動を把握する基礎資料となる。

税務署に疑われないための
3つの対策

確定申告・国外財産調書の簡易的な対応フロー

確定申告の手順と必要な記録

海外銀行口座で得た利息や配当金、売却益などがある場合、日本国内に居住する方は確定申告が必要です。とくに会社員の方でも、副収入(給与以外の所得)が年間20万円を超える場合は対象となります。

    申告にあたっては、以下のような記録を整えておくと安心です。

  1. 外貨預金やドル建て保険で得た利息が一定額を超えた場合
  2. 海外口座で利子・配当・譲渡益などの収入があった場合
  3. 海外にある資産を日本に送金した場合

補足:確定申告が不要なケース

給与所得のみで、給与以外の所得が年間20万円以下の場合は、確定申告の義務は原則としてありません(ただし申告することで控除を受けられる場合もあり)。

国外財産調書の提出義務と罰則

海外に資産5,000万円以上を保有している場合、日本の税法では「国外財産調書」の提出が義務づけられています。これは、海外資産の保有状況を税務署に知らせるための書類であり、未提出や虚偽申告には加算税や重加算税が課される可能性があります。なお、国外財産調書は資産内容(預金・不動産・株式など)とその評価額を記載するもので、正確性と透明性が重視されます。

補足:国外財産調書の対象者とは?

その年の12月31日時点で、海外に5,000万円超の資産を保有している日本居住者が対象。翌年6月30日までに提出が必要です。

税理士の活用と「リスク回避」の考え方

海外資産に関する税務は、国際税制・為替・申告ルールなど専門知識が必要です。不安な場合は、国際税務に詳しい税理士や専門機関のサポートを受けることが、最大のリスク対策になります。特に、過去の申告漏れがある可能性のある方や、多国籍にわたる資産構成を持っている方は、早期に専門家へ相談し、対処方針を決めておくことが、将来のリスクを大きく減らすポイントです。

よくあるQ&A:
税金・申告に関する素朴な疑問

Q1.海外に住んでいれば、
日本の税金は関係ない?

一定の条件を満たさなければ、日本での課税対象となります。

税金がかかるかどうかは、「住民票の有無」や「パスポートのスタンプ」ではなく、税務上の“居住者・非居住者”の区分によって決まります。日本に生活の拠点がある、家族が住んでいる、頻繁に帰国しているなど、これらの要素がある場合は、たとえ海外で暮らしていても日本の居住者と見なされることがあります。

補足:「非居住者」とは?

日本国内に住所がなく、かつ1年以上継続して日本に居住していないと認められる者。判定には実態が重視されます。

Q2.資金を日本に戻すと税金がかかる?

戻す行為自体には課税されませんが、「その資金の出どころ」によっては課税対象です。

たとえば、海外で得た利息や配当、為替差益などを日本に送金した場合、それらの所得を日本で申告していなければ、税務調査の対象になる可能性があります。特に、過去数年分の無申告が明らかになった場合は、延滞税や重加算税が発生し、多額の追徴課税を受けるリスクがあります。

Q3.家族名義にすれば、
税金を回避できる?

回避はできません。むしろ「名義預金」と見なされ、課税リスクが高まります。

たとえば、親が子供名義の海外口座に資金を移しても、実質的に親が管理している場合は“親の資産”と見なされます。こうしたケースでは、贈与税や相続税の対象となるだけでなく、過去に遡って課税される可能性もあるため注意が必要です。

補足:名義預金とは?

口座名義は他人でも、実際の資金管理者が本人の場合、その資産は“本人所有”と見なされる。税務署はこの観点で追跡します。

まとめ:海外口座は
“正しく申告すれば”怖くない

海外銀行口座の活用は、資産を分散し、円だけに頼らない柔軟な資産設計を可能にします。しかし、その一方で「申告の手間」や「税務リスク」に目を背けたままでは、資産防衛どころか将来の負担を増やす結果にもなりかねません。

現在は、CRSや送金報告制度の整備により、海外資産の“見える化”が進んでいます。「海外ならバレない」「家族名義なら安心」といった認識は、すでに通用しません。

正しく海外口座を使うチェックポイント

利息や配当など、得た収益は確実に申告する

国外財産調書の提出が必要な場合は、期限内に対応

不安がある場合は、早めに専門家へ相談する

安心して資産を守るために
──次の一歩を

正しい知識と適切な申告をすれば、海外銀行口座は強力な資産形成ツールとなります。 申告の不安を放置せず、「見える化された税務社会」に対応できる体制を整えることが、これからの資産運用における最初の一歩なのです。